#188 「2030年代後半、世界を変えるテクノロジーの地平──10年先の勝者を占う」

ここでは、さらに先の約10年後(2030年代後半~2040年頃)を見据えたテクノロジーの進化を、大きなテーマごとに概観してみましょう。予測には不確定要素が多く含まれますが、現在の技術トレンドや研究の進展状況を踏まえた未来像としてご参考ください。

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1. AIの高機能化と“汎用性”への接近

人工知能のさらなる“汎用化”

2030年代後半には、各企業・研究機関がAGI(Artificial General Intelligence)”に近い知能モデルを目指して大規模投資を継続し、特定分野にとどまらない多様なタスクをこなせるAIが台頭する可能性があります。自然言語、画像・動画理解、創造的発想など、複数の能力がシームレスに結合された“マルチモーダルAI”はさらに高度化し、専門家レベルの分析や提案が可能になるでしょう。

• 生体融合・ブレイン・マシン・インターフェースBMI)の普及

AIと脳神経科学の交点であるBMI技術が飛躍的に進化し、障害者支援や医療分野での神経制御などが進むだけでなく、日常生活に組み込まれる可能性もあります。ただし、倫理やプライバシー、セキュリティ面での社会的議論が必須となりそうです。

 


勝ち組企業・領域

• AIプラットフォーム企業: 現在のGAFAMや新興AI企業が進化した形で独占的な立場を築くか、あるいは国や大規模機関との共同研究体制が主流となるかが注目ポイント。

BMI系スタートアップ: Neuralink(イーロン・マスクの関連企業)など既存の先駆企業に加え、大学発ベンチャーや医療デバイスメーカーが連携し、新たな革新を起こす可能性が高い。

 


2. 量子コンピューティングの社会実装と“ポスト量子”時代

量子コンピュータの実用化範囲拡大

2030年代には誤り耐性を備えた量子コンピュータ(FTQC: Fault-Tolerant Quantum Computer)の初期段階が一部稼働している可能性があります。物流・金融・創薬・新素材開発などで“量子優位性”が得られるシーンが増え、大幅な計算時間短縮や新たなイノベーションが生まれるでしょう。

• 暗号技術の再構築(ポスト量子暗号)

量子コンピュータが暗号解読を可能にするリスクを見据えて、次世代暗号アルゴリズム(ポスト量子暗号)が本格的に導入される時期です。企業や政府機関は大規模なシステム更新を迫られることになるでしょう。

 


勝ち組企業・領域

量子コンピュータ専業企業: D-Wave、IonQ、Rigettiなど、先行企業が段階的に実用化をリードし、大手IT企業との提携を深める。

• テック大手: IBMGoogleMicrosoftAmazonなどがクラウド量子サービスで市場を広げ、量子アプリケーション開発プラットフォームを提供。

• セキュリティ関連: ポスト量子暗号のソリューションを持つ企業が高い需要を得て、政府や大企業向けにサービスを展開。

 


3. エネルギーとサステナビリティの革新

再生可能エネルギーの大規模拡張

太陽光・風力のさらなる効率化、バッテリー技術の進化でエネルギーの地産地消が進み、地域のマイクログリッドが普及する可能性があります。

核融合エネルギーの実証・初期実用化

ITER(国際熱核融合実験炉)や民間の核融合ベンチャーが成果を出し始め、2030年代後半には“実用化”に向けたプロトタイプ発電の試験運用が行われるかもしれません。実際の商業化にはさらに時間がかかると想定されますが、エネルギー革命の突破口として大きな注目を集めそうです。

サステナビリティ関連技術の進化

二酸化炭素の回収・貯留(CCS)技術、炭素を再利用する技術(CCU)などが進み、産業インフラを脱炭素化する動きが本格化します。バイオプラスチックや合成燃料、空気中からの直接CO2除去など、多様なソリューションが事業として成立する可能性が高いです。

 


勝ち組企業・領域

• エネルギー大手・新興ベンチャー: 既存の再エネ企業(NextEra、Ørstedなど)に加えて、核融合ベンチャー(Helion Energy、Commonwealth Fusion Systemsなど)やCCUS関連企業が台頭。

• 総合テック企業: GoogleAmazonなどが持つクラウド・AI技術を活用し、エネルギーマネジメントや分散電力システムに参入。

• インフラ系企業: 大規模送電網を持つ企業や重電メーカー(Siemens、GE、三菱重工など)が、次世代インフラ整備で存在感を高める。

 


4. 超空間コンピューティングと“メタバース+α”の進展

• AR/VRを超えた“XR”の浸透

ヘッドマウントディスプレイをはじめとした装着型デバイスは、2030年代にはさらなる軽量化・小型化が進み、コンタクトレンズ型デバイスや網膜投影など、“ほぼ装着感を意識しない”レベルまで進化している可能性があります。

メタバースの高度化

単なる仮想空間を超えて、現実世界とのシームレスな連携や感覚共有(触覚・嗅覚など)の一部実用化が進むことで、「現実と仮想空間の境界が曖昧になる」世界観に近づきます。またブロックチェーン(Web3)による資産管理や取引の仕組みがさらに浸透し、経済やコミュニティがバーチャル空間で大きく展開するでしょう。

 


勝ち組企業・領域

• プラットフォーム型メタバース企業: Meta、AppleMicrosoftEpic Gamesなどが、ハード+ソフト+サービスを一括提供する総合エコシステムを形成。

• 新興スタートアップ: 触覚再現デバイスや脳波読み取り技術を手掛けるベンチャーが注目され、大手企業に買収・パートナー化されるケースも増加。

• Web3インフラプロバイダ: ブロックチェーン基盤の運営企業やLayer2技術を有する企業が、メタバース上のトランザクションやNFTを支える重要な存在に。

 


5. バイオテックと医療・ウェルネスの高度化

• 遺伝子編集技術(CRISPRなど)の応用拡大

2030年代には、一部の遺伝子疾患の治療法が確立されるほか、病気のリスクが高い遺伝子配列を事前に修正する“予防的医療”が徐々に実用化される可能性があります。しかし、倫理・規制面での議論が欠かせません。

再生医療・組織工学の進歩

iPS細胞などを活用した臓器再生や3Dバイオプリンティングが普及に近づき、臓器移植の待ち時間問題が大きく変わる可能性があります。

• “デジタルツイン”による個別化医療

個々の患者の遺伝情報やライフスタイルデータなどをリアルタイムにシミュレーションできる“デジタルツイン”が、診断から治療プロセスまでを最適化。高齢化や慢性疾患対策にも効果を発揮するでしょう。

 


勝ち組企業・領域

バイオテック系: Moderna、BioNTechをはじめとしたmRNA技術・遺伝子編集技術を開発する企業、細胞医療や再生医療に強みをもつベンチャー

• 医療機器メーカー+ソフトウェア企業: 手術支援ロボット、リモート診断プラットフォーム、患者データ解析AIの領域で強固なシェアを確立する企業。

• 保険・ヘルスケアサービス: 個別化医療に対応し、保険料や治療方針をAIがカスタマイズするサービスを展開。大手保険会社とテック企業の協業が増える。

 


まとめ:2030年代後半の世界像

 


このように2030年代後半~2040年頃は、AIがさらに汎用的な能力を獲得し、量子コンピュータが社会システムを支え、エネルギー革命とサステナビリティの革新が進み、バイオテックやXRが人間の身体や感覚を拡張する──まさに“超加速的”な技術進化が交錯する10年となるでしょう。

 


同時に、技術進歩にともなうプライバシー・倫理・セキュリティなどの課題も一層複雑化し、国際的な枠組みや規制、公共政策のあり方が大きく問われる時代でもあります。こうした技術と社会の両面からアプローチするリーダーシップが求められ、それを的確に行った企業・組織・国が、次の時代の勝者となる可能性が高いと言えます。